秋田公立美術大学卒業・修了研究作品展2019
秋田公立美術大学卒業・修了研究作品展2019
醸す、テイク。かもしていく。
東北 秋田には、冬の厳しい気候・風土の中で食料を蓄えるために生まれた「醸す」という食文化が根付いています。醸す元となる麹菌は、じっくりと長い年月をかけて「分解」と「合成」を繰り返し生成され、日本酒や味噌、醤油など様々な食材をつくります。
「様々な素材を掛け合わせ、新しいものをつくる。」 本学の「複合芸術」「領域横断」の可能性を醸造の過程になぞらえて、「カモステイク」というテーマを掲げました。私たちがそれぞれ醸しだした創造が、この展覧会を通じて何らかの変化や流れをもたらし、新たな交流や領域が展開されることを期待し、「卒業・修了研究作品展2019 カモステイク」を開催します。
【開催日時】平成31年2月15日(金)〜2月19日(火) 10:00〜18:00(最終入館17:30まで)
※初日のみ開始時刻13:00から ※最終日のみ最終入館16:30まで
【開催場所】秋田県立美術館 1階県民ギャラリー(〒010-0001 秋田市中通1丁目4−2)
秋田市 にぎわい交流館AU2階展示ホールほか(〒010-0001 秋田県秋田市中通1丁目4−1)
【主 催】秋田公立美術大学卒業・修了研究作品展2019実行委員会/秋田公立美術大学
学長賞
「PLAY TIME」
浅香 遊 Asaka Yuu
(ビジュアルアーツ専攻)最初にパズルの作品を制作したのは三年生の終わり。世界で権威あるコンペで話題を博し、さらに難易度の高いパズルで海の向こうの人を熱狂させている。既存の美術の枠にとわられず、独特の知性と勘を頼りに、世界でまだ誰も作ったことのないパズルを生み出し続けている作者は、米アップル社の「Think Different」という言葉を思い起こさせる。領域を超えた自由な美術教育を目指す本学の大きな成果と言えるだろう。
メカニカルパズル5点
学長奨励賞
「attaching home」
折出 裕也 Oride Yuya
(景観デザイン専攻)現代における住居が「商品」であることをその対極となる「超個人住居」のセルフビルドの課程と成果を通して痛烈に批判する、人間居住の未來へ向けた「思想としての建築」の提案である。都市居住の新しい形式の可能性への着眼、国内外事例の研究とその再解釈、現代社会の有り様を作品の力で批評とする姿勢、長期にわたり実践した屋外でのセルフビルドの活動の4点において、高度な説得力を備えた優秀作品が提示された。
立体作品1点 アーカイブ5点
きらり早瀬眞理子賞
「とおくへ」
千葉 さわ Chiba Sawa
(ものづくりデザイン専攻)作者がこれまでの制作の中でみつけた、素材の魅力を伝えるための美しい形を探求した作品である。一枚の材からイメージをふくらませ、表情の変化を肌で感じながら刳る、彫る、磨く。これらの工程を経て生まれた、柔かさと広がりを感じさせるかたちには、長い時間をかけてじっくりと向き合ったからこそ発見できる価値をみることができる。そして見る者を強く惹き付ける力となっている点を高く評価した。
立体作品
秋田市長特別賞
「horboring-鯨を抱く-」
長門 あゆみ Nagato Ayumi
(アーツ&ルーツ専攻)丹念なリサーチに基づき、膨大で丁寧な手仕事を重ね、大規模でありながら緻密なインスタレーションを実現。捕鯨という現代的な主題を、自身の故郷である東北という土地との関係において見出し、それを他者へとひらく真摯な態度に基づく優れた作品である。
立体作品
秋田魁新報社特別賞
「モノピカル」
南林 いづみ Minamibayashi Izumi
(ビジュアルアーツ専攻)常に意欲的に実験を重ね、質の高い制作姿勢を貫く作者は、無数の植物が埋め尽くす絵画を描く。作者が描き続けるこのシリーズは 、これまで圧倒される極彩色とさまざまなサイズによる制作が行われてきた。しかし、卒業研究作品は、一転して色彩はほぼモノクロームを採用することで、モチーフ個々の形態やテクスチャーの特性が強まり、大画面であることも相まって、きわめて鮮烈な絵画体験を見る者に与える意欲作となった。
平面作品 絵画2点
ABS秋田放送特別賞
「くましらずして」
大下内 舞衣 Oshitanai Mai
(アーツ&ルーツ専攻)阿仁マタギの風習や熊解体の儀式に触発され、雪原での解体映像と立体作品を組み合わせた意欲作。これまでに何度もフィールドワークを重ねてきた。定評のある立体作品の制作から、映像制作への飛躍に成功した。熊の像は乾漆技法を用いて、これだけでも鑑賞に堪えうるが、解体するために熊の内部を粘土で造り、作品内容を高めた。秋田にしか存在しないルーツの深堀りに挑んだ傑作である。
立体作品 映像作品
AKT秋田テレビ特別賞
「コケの島」
小林 祐子 Kobayashi Yuko
(アーツ&ルーツ専攻)ペンで描かれた苔の絵は、苔や伝承とフィールドワークでの経験を元に、独自の物語を生み出し、突出したクオリティで表現されている。苔の生態等の研究や栽培と、現地でのスケッチや撮影など、継続して取り組んできたことが確かな裏付けとなり、他に類を見ない世界を生み出した傑作である。
平面作品 ペン画10点、本1冊
AAB秋田朝日放送特別賞
「rebirth」
砂庭 望 Sunaba Nozomi
(アーツ&ルーツ専攻)卵子ドナーの体験により、胎児、遺伝子操作、出産などをモチーフに表現を試みてきた。その流れで、圧倒的な作業量の手作業による自分自身が入ることのできる籠を制作。圧巻である。
立体作品
CNA秋田ケーブルテレビ特別賞
「日常のなかに」
杉井 菜々子 Sugii Nanako
(ビジュアルアーツ専攻)一見すると白い布が展示されているだけのようだが、作品の細部を見ると、この布を解いた糸で刺繍された存在に気付く。あらためて作品全体を見ると大きなスマートフォンの電子基板が出現する。いつも持ち歩く情報伝達のツールとしか捉えていなかったスマートフォンが壊れてしまったことで、見過ごしてしまうカタチが日常には多く存在しているということを問いかけている。丹念にひと針ずつされた刺繍の完成度も高く優れた作品である。
平面作品
あきびネット特別賞
「レジスタンス」
青谷 遥香 Aoya Haruka
(コミュニケーションデザイン専攻)スーパーやコンビニエンスストアなどで大量に配られる代表的な環境問題である「レジ袋」とその立場(スタンス)が本作品のテーマである。エキゾチックな表現により、暗さの中に生きる悦びや働く充実さえも伝えている。典型的な現代文明への警鐘という形式をとりながら、実は、人間が生み出したモノたちへの愛情表現であり、鎮魂歌である。典型的な課題に対し作者の視点により卓越したオリジナルな表現を実現したことを評価する。
映像作品