秋田公立美術大学卒業・修了展2020
秋田公立美術大学卒業・修了展2020
「ブルーオーシャン・ビュー」
「ブルーオーシャン」とは未開の地という意味です。
本学は社会の大きな変動に呼応し、古い概念にとらわれることなく新しい芸術領域の創造に挑戦する大学です。卒業し、新しい芸術領域の創造に挑戦する私達のこれからの展望を見据えた意味と、卒業・修了展の会場全体をその展望の地と見据え、サブタイトルを『ブルーオーシャン・ビュー』と致しました。
【開催日時】令和2年2月14日(金)〜2月18日(火) 10:00〜18:00(最終入館17:30まで)
※初日のみ開始時刻13:00から ※最終日のみ最終入館16:30まで
【開催場所】秋田県立美術館 1階県民ギャラリー(〒010-0001秋田市中通1丁目4−2)
秋田市にぎわい交流館AU2階展示ホールほか(〒010-0001 秋田県秋田市中通1丁目4−1) アトリオン2階美術展示ホール第1、2展示室(〒010-0001 秋田県秋田市中通2丁目3-8)
【主 催】秋田公立美術大学卒業・修了展2020実行委員会/秋田公立美術大学
学長賞
「Pendulum」
加藤 正樹 Kato Masaki
(ものづくりデザイン専攻)ひとが意識して生み出すかたちと、人為を超えたところで生まれるかたち。そのあいだに自身を追い込みもがく中で、彼固有の斬新な陶芸技法を見つけ出すことに成功した。プロダクトデザインを学びつつ、身体ごと土にぶつかっていくようなものづくりの経験を重ねる、秋美ならではの学び。常識や既成概念では無謀と思われる試みを、先が見えなくても諦めずにひとつひとつ試す地道さから生まれた作品と言える。
立体作品
学長奨励賞
「こうしてわたしはつくられた」
茂木 美野子 Mogi Miyako
(ビジュアルアーツ専攻)「腐女子」とは男性同士の恋愛漫画、いわゆるボーイズラブを好む女性を指す言葉(ときに蔑称)である。作者は自身が腐女子であることの自覚からリサーチを開始し、日本で腐女子が生まれた背景、さらにはそれがフェミニズムと連続している事実を解き明かしていく。「自分は何者か」を問う中で見えてきたのは「男女不平等」という問題だった。社会と文化の連動を冷静に見つめながら生まれた理性的な作品はしかし、声高に主張することなく慎ましやかに、観客の理解を優しく促す。使われている技術と視覚的トーンのバランスも見事である。
インスタレーション作品
複合芸術研究賞
「妖怪テレビ」
求 源 Qiu Yuan
(大学院複合芸術研究科修士課程)留学生である作者は来日後の体験を通じて感じたり考えたグローバルな話題やローカルな話題を映像インスタレーションとして制作した。文化や国際情勢、表現手法といった様々な異なるレイヤーを複合的な視点を持って取り組んだ。親しみ易い妖怪キャラクターと分かり易い構成に徹し、老若男女を対象にしたリミテッドアニメーションの中にアイロニーとユーモアを詰め込んだ完成度の高いエンターテイメント作品となった。
映像作品
きらり早瀬眞理子賞
「うつりかわる」
冨井 弥樹 Tomii Miki
(ものづくりデザイン専攻)ガラスと磁土を混合して焼成成形するという、過去類を見ない技法の開発にチャレンジしたことをまず評価したい。卒業研究の期間中、先人達の残した情報もない未知の領域に挑み、日々たゆまない実験をくり返し作者の美意識にかなう表情を見つけるまでに至った作業行程と勇気は尊敬に値する。秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻での領域を横断する教育と作者の才能が実を結んだ作品であると言えるだろう。
立体作品
秋田県立美術館館長賞
「風狂ハウス」
中村 邦生 Nakamura Kunio
(アーツ&ルーツ専攻)秘密基地のようなところで企てながら暮らしてみたい。少年の頃の憧れの実践だった。新屋浜にテントを張りそこで暮らしながら大学に通おうとしたり、制作室の一角にツリーハウスの居場所を作ったり、試行錯誤と失敗を重ね独自の表現を手探りしていた。その態度そのものに価値がある。コンセプトを言語化せず、明確な完成形を決めてしまわない状態で、感性に任せて実践し、身体的な経験を重ねるところからしか生まれないものがある。大学の一角に環境音を集音するための小屋を作り、極寒の中そこで生活しながら環境音を軸に活動のリミックスを試みていた。荒々しく未熟でざわついた表現に共感した。
立体作品 映像作品
秋田市長特別賞
「川反の訪人」
齋藤 大一 Saito Daichi
(景観デザイン専攻)高度経済成長期から現代にいたるまでの景観の変遷を、秋田市川反にかつて暮らしていた「中島のてっちゃ」という現在では不在の人物に焦点を当て、彼の足跡を追うことで明らかにしようとする意欲作。作者の綿密なリサーチに支えられた景観についての考察が、様々な人物への実直なインタビューを通して、揺さぶられ、エモーショナルに変容した点が秀逸であり、それを目撃する我々観客の胸をうつ。ここに優れた短編ドキュメンタリーが誕生した。
映像作品
秋田魁新報社特別賞
「中立のない場所で」
谷口 茉優 Taniguchi Mayu
(ビジュアルアーツ専攻)作者は身近な「空き地」を調査することで、一見空虚に見える「空き地」の中に、自身と外的世界をつなげる豊かな要素を見出した。それは、風景、音、植生、隣人の記憶や郷土史のデータなどであり、外来植物の伝播から産業化や戦後高度成長に至る潜在する要素を、テキスタイルのように紡ぎだすインスタレーションとして表現した。細心の注意が払われ集められたディテールの効果により、多層的な土地の記憶を呼び起こす秀作である。
インスタレーション作品
ABS秋田放送特別賞
「間の空気を包む」
松本 香音 Matsumoto Kanon
(コミュニケーションデザイン専攻)この作品がすくいとるのはヒトとヒトの間にある空気である。同じ背景を持つ人達がその間にある空気の変化を捉えることは簡単なはずである。人は自分が馴染んだ空気の変化を嫌う。ヒトとヒトの関係がこれほどまでニュースになる時代があっただろうか。世代、性差、文化、信条、感性の違いを無理矢理同化する私達の社会はいよいよ限界に来ているようだ。参加する我々の戸惑いと萎縮の姿もこの作品では捉えているようだ。
立体作品
AKT秋田テレビ特別賞
「畑でひろがるくらし~街につながる集合住宅~」
加藤 菜摘 Kato Natsumi
(景観デザイン専攻)秋田市中心市街地に、空間を介して多様な暮らしを提示する集合住宅の秀作である。集まるための媒介として「畑」を集合住宅内に細かく配置することで「耕す」「収穫する」「食べる」などの行為を通して様々な人々のつながりを生む仕掛けを考案した。畑の他にもカフェや温泉など、複雑に構成されたプログラムを緻密に設計することで、そこに生きる人々の多様な暮らしと交流を可能とし、その上で街に賑わいをもたらそうとする卓越した建築設計である。
建築図面 模型
AAB秋田朝日放送特別賞
「碧い空の波の音」
井原 ひかる Ihara Hikaru
(ものづくりデザイン専攻)本作は作者が秋田で過ごした4年間をテーマに制作された。日常生活の中にある風景や季節ごとに変化する景色、それは秋田では当たり前にある日常だが、福岡県出身の作者にとっては全てが新鮮に映ったことだろう。その感動を素直に表現した魅力的な作品である。また、友禅染という伝統的な技法を使いながらも独自の表現に挑戦している点も評価したい。
タピストリー
CNA秋田ケーブルテレビ特別賞
「模様をもつ人たち」
阿部 晶絵 Abe Akie
(コミュニケーションデザイン専攻)少し前ならば隠して来た欠点やコンプレックスを、自ら「美しく」発信し始めた時代の表現である。「美しい」とはなんだろう。美人の条件には時代や地域による違いがある。これまで「美しい」はマジョリティーに安直に複製されて来た。個人発信時代「美しいこと」がマジョリティーからマイノリティーに移ったのだ。「羊」が「大」きいことが「美」しかった時代から遠くにきたことをこの作品は教えてくれる。
立体作品
あきびネット特別賞
「Life Hacker」
小山 広和 Oyama Hirokazu
(コミュニケーションデザイン専攻)物語の主人公は空き巣する家を探し続け、放置された芸術家の仕事場に出会う。主人公はそこで芸術家として生きることを選択する。人生を盗んだのだ。本作は本学の領域横断教育の成果である。静かに自分と向き合い逡巡する作者が「デザインを知りたい」と専攻を選んだ時、学内は驚きに包まれた。美大生活の最後にアニメーションというメディアと出会い、彼の思考は外部と繋がる手段を獲得した。
映像作品