秋田公立美術大学卒業・修了展2024
「ここにいる、ここがある。」
互いの違いを認め合い「個」を大切にしながら制作に向き合ってきた
という、此処にいる、個々がある、そしてコロナ禍で曖昧な距離感の
中、手探りで少しずつ居場所を作ってきたという個々に要る、此処が
あるのふたつの意味が込められています。
秋田公立美術大学卒業・修了展2024
【開催日時】令和6年2月15日(木)〜2月19日(月) 10:00〜18:00(最終入館17:30まで)
※初日のみ開始時刻13:00から ※最終日のみ最終入館16:30まで
【開催場所】秋田県立美術館 1階県民ギャラリー(〒010-0001秋田県秋田市中通1丁目4-2)
秋田市にぎわい交流館AU(〒010-0001秋田県秋田市中通1丁目4-1)
秋田市文化創造館(〒010-0875 秋田県秋田市千秋明徳町3-16)
秋田公立美術大学サテライトセンター(〒010-0001 秋田県秋田市中通2丁目8-1)
【主 催】秋田公立美術大学卒業・修了展2024実行委員会/秋田公立美術大学
~ 受賞作品 ~
学長賞
「胎虚、或いは安息の地で」後藤 那月 Natsuki Goto
(アーツ&ルーツ専攻)巨大な器の表面に煌めく塩の結晶。それが生成変化し続ける。そして、静かに佇む岩が悠久のときに絶妙なリズムを加える。――今ここで我々が経験している時間とは何なのか。本作を眼前にし、我々は身体の深淵から「とき」が顕在するのを感じる。そしてその空間を作者は「安息の地」と名付けた。本作は、「天上の庭」とも呼ばれ標高2,600mを誇る雲ノ平をはじめとして、日本各地のフィールドワークで得た作者の深い実感が、凛としながらもダイナミックに表現された傑作である。世界に流れる「とき」に真摯に向き合い続け、我々にその片鱗を見せてくれた作者に最大限の賛辞を贈りたい。
複合芸術研究賞
「縄文土器文様における視覚的呪術性に関する研究―呪術的視覚表現システムの試作について―」呉 芸舟 Yizhou Wu
(大学院複合芸術研究科 修士課程)岡本太郎以降の縄文美学の文脈で当然のごとく語られてきた、その土器が持つ荒々しさ、ダイナミックさの「内実」とはいかなるものか。本論文では「呪術性」をキーワードに、縄文をモチーフとする美術作家や評論家の言説からそれを再考している。極めて精緻な文献・資料調査に基づく論を構築しており、文章からは静謐な情熱を感じる。また、その背景には継続的かつ綿密なフィールドワークがある。本論文では、これまでの縄文土器の分類法のまとめ、独自の配列システムを提示している。さらにそこから北海道・東北の縄文土器の表現の特徴の抽出も試みている。デザイン学と芸術学そして考古学といった領域を横断する重厚な論文である。
学長奨励賞
「土楽器」矢﨑 舞子キアラ MaikoKiara Yazaki
(ものづくりデザイン専攻)作者による実験の積み重ねと飽くなき探究心から出来上がった力作である。これまで長い歴史を経て改良されてきた「楽器」を、土という素材により問い直し、新しいものとして表現しきっている。また、自身が見つけたものをセッションによって他者と共有し聴く人々へ波及させる試みは、自己表現のみにとどまらず更なる可能性を感じさせるものとなった。工芸とデザインの融合として一つの答えとなった本作品は、これからの展開を期待させるものとしても高く評価したい。
第10回きらり!早瀬眞理子奨励賞
「纏」川西 海斗 Kaito Kawanishi
(ものづくりデザイン専攻)秋田県の伝統工芸である樺細工の魅力をジュエリーに取り入れ、そこから生まれる可能性を主題にした作品である。作者は県内外の企業や林業関係者を直接訪問し樺細工のリサーチを行ない魅力と課題を考察した。それらを専攻で学んだデザイン的思考と彫金技術で捉え直すことでジュエリーと言うメディアでの作品制作に至った。実材試作による検討を重ねながら、立体的で銀と樺のそれぞれの魅力が引き出された実用的な提案になっている。
秋田市長特別賞
「M 0.40」赤坂 凜 Rin Akasaka
(景観デザイン専攻)本作品が提示する"ただそこにあるもの"と"ただ関わり続ける"というモニュメントとの向き合い方には、刮目せざるを得ない。誰も注目していないモニュメントを日々清掃し続ける作者の姿は滑稽に映るだろう。しかし、その切実な滑稽さは、モニュメントとは何か、場所とは何かといった様々な問いを浮上させる。安易なモニュメント批判や定型化された地域活性化のストーリーに帰着させない、ユーモラスでありながらも極めて批評的な作品として高く評価される。
秋田県立美術館館長賞
「おちんぽくん」おちんぽくんスタッフ Ochinpokun staff
(ビジュアルアーツ専攻)なぜ多くの人が、この作品のタイトルを公で口にすることを躊躇するのか。この疑問に対して、"おちんぽくん"は、その存在自体で社会の潜在的規範に挑戦する。作者はこの可愛くも挑発的なキャラクターを通じて、展示や販売、SNS上で一連の試みを実施し、性的表現のタブー、下ネタの文化、自己検閲に対する問いを提起する。これらの社会実験は、男性性器とその表象に関する既成概念や忌避感を明るみに出した。既存の表現活動の枠を拡張し、新しい芸術領域に挑んだ作品である。
秋田魁新報社特別賞
「おおだて屋台プロジェクト」伊多波 七維 Nanai Itaba
(景観デザイン専攻)本作品は、作者によるインドネシア現地で実施した屋台についての社会調査の成果である。しかし、作品は単に調査資料群の集積を作品化したものではなく、地方都市における人々のコミュニケーションに内在する欠損部分を探り修復することを目指す社会実践プロジェクトとして提示されたものである。本作品では、上記の「欠損」を、個人の時間や記憶、物、情報、スキルやビジョンなどが自発的・偶発的に交わされる「日常の中でのインフォーマルな交換行為」であるとし、その再生を担う移動式建築装置(屋台)の運用を通して地方都市の課題の本質に向けて問いを発している。都市や社会に関わる様々な専門領域からの理解と批評に開かれた、本学の芸術教育が標榜する「領域横断」が社会実践として体現された作品である。
ABS秋田放送特別賞
「地から生まれ、風になる。」藤原 櫻和子 Sawako Fujiwara
(ものづくりデザイン専攻)日々を生きるわたしたちの日常を超越したところに、森や海、大気を含み込む大きな自然の摂理がある。その自然の摂理そのものがふくらみ、しぼみ、またふくらむ息遣いが聞こえてくるような凄みのある作品である。制作することを生きることとして、森に触れ、つちに触れ、ことばに触れ、世界に触れ、触れつつ触れ返される制作の深い井戸の中から生まれた、現代を生きる人類のありかたを問い返すちからのある作品。
AKT秋田テレビ特別賞
「未来あるかくれんぼ」庄司 彩乃 Ayano Shoji
(ビジュアルアーツ専攻)透過率を用いてストーリー展開していく「すけすけくん」のように紙の特性を引き出しながら、新しい読書体験を模索するシリーズ作品である。「かくれんぼてつだって」では日常では禁忌とされるページを破る内容を意図的に取り入れ、破損行為の後に親子や友人との修復作業や物語の再構築を促す内容になっている。行為の善悪、決断と後悔について読者同士が話し合う。読書を通じた、素材への興味の醸成と情操教育を試みた意欲的な絵本である。
AAB秋田朝日放送特別賞
「角浜駒踊り画伝」古瀨 まどか Madoka Furuse
(コミュニケーションデザイン専攻)この研究は、作者の故郷である岩手県最北端の洋野町に80年に渡って伝承されて来た民族芸能・角浜駒踊りを題材としている。自らも踊り手であったことから、今後も末永く伝承されるための教材と成り得るよう、世代を問わず親しめる絵柄や表現方法を試行錯誤し、アニメーションという最適な形で作品に結実させた事はもとより、現地での詳細なリサーチを行った真摯な研究態度に、自らのルーツとなる地域の歴史を大切にしている熱意が感じられる。自分の学んだ技術を最大限に生かし、膨大な作画作業を経て作品化した事は、非常に評価に値する。
CNA秋田ケーブルテレビ特別賞
「三毛猫絵巻」すずはな Suzuhana
(コミュニケーションデザイン専攻)小説家や漫画家は、自分で生み出した複数のキャラクターを頭の中で自律的に動かす。その姿をメディアに留め制作する一方、時として多重人格症状のような苦しみを味わうという。この研究では作業量、アナログやデジタルを問わない技法の多様さや技巧に目が行きがちである。しかしこのプロジェクトは13歳の頃から作者の中にありながら同じ時を過ごし年齢を重ねたキャラクターに「直接出会うこと」を目的としている点に注目しなければ、価値のほとんどを失うことになる。3人のキャラクターが「生きている空間」に入り込もうと企図するなど、長期間に渡り様々な方法を模索してきた。プロジェクトが終盤に差し掛かった頃作者自身が「会いたかったが会えなかった。」と呟いたことから、作者が真摯にプロジェクトに向き合ったことが判る。本研究が優れているのは、ともすれば安直な結論や浅薄な成果を意義あるように主張する社会への批判として、作者の姿勢が機能している点にある。
あきびネット特別賞
「HANABANASHI」川口 智深 Tomomi Kawaguchi
(コミュニケーションデザイン専攻)本作品は、生花の需要減少という現代の課題に対するアプローチとして、ブランド構築を提案したものである。花を購入する際に、その花の説明と共に物語が綴られた「絵本」を付属させることで、消費者に花の背景や意味に対する深い関心を喚起し、購買意欲を高める効果を設計した。さらに花を持ち運びやすくし、直接飾ることが可能なパッケージデザインを考案することで、生花の利便性と魅力を向上させた。平面・立体・空間表現ともに、統一した世界観で演出の完成度が高く、コミュニケーションデザインの観点から見ても、本作品は優れた評価に値するものである。