複合芸術研究科の広報誌『TRANS 02』を発行しました。

昨年の複合芸術科広報誌『TRANS 01』に続き、『TRANS 02』を発行しました。本記事末尾にてPDFデータも公開しております。ぜひご覧ください。



Editor’s Note

先日、八戸市にお住まいの中村タケさんを訪ねました。タケさんは御年92歳、最後の全盲イタコです。死者の霊を招き、そのことばを語る「口寄せ」を、今もご自宅でなさっています。もちろん、私にとっては初体験。やや緊張しながら対面しました。

驚いたのは、口寄せがきわめて音楽的な経験だったこと。一定のリズムで滔々と語るタケさんは、死者からのメッセージを伝達しているというより、むしろ詩を詠み上げているようでした。しかも同じことばが何度も繰り返し唄われるので、それらに耳を傾けていると、次第に見えない渦の中に巻き込まれていき、やがて非日常的なトランス状態、いやむしろ、日常的で穏やかな陶酔感を味わったのでした。

直線的に語られる物語ではなく、環状的に反復することば──。おそらく、その円環の中心にこそ、あの世とこの世をつなぐ回路が伸びているのでしょう。そして、複合芸術の「複合」もまた、その円環の内側に位置づけられるような気がしました。それがAとBとの移動や越境を意味する以上、直線的なイメージで理解されがちであるとはいえ、あの世とこの世をAとBに充填しうるとすれば、複合を円環構造としてとらえることは十分に可能だからです。
事実、本号にはさまざまなことばが反復しています。北澤論考で言及された大正アヴァンギャルドは、山川論考における多磨全生園に生きた描き手たちと表裏一体の関係にありますし、服部論考が触れた「機材=道具」という論点は、同じく北澤論考におけるハイデッガーの「道具連関」という概念でとらえなおすこともできるでしょう。

さあ、反復することばの奥へ──!

『TRANS』編集長 福住 廉