旅する地域考archive

秋田で秋田と想ったこと

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#レクチャー「集団で逗留し、巡る」

#五城目町

#佐藤稔

冬編 Lecture

佐藤 稔

 

 

開催日:2019213

会場: 五城目町 団欒の家 高堂

 

 

当プロジェクトの活動拠点・五城目町のローカルゲストは、秋田大学名誉教授の佐藤稔氏。言語学者でもある佐藤氏は、秋田の言葉のほか、標準語の成り立ちや方言の変化などについて、紙芝居形式で分かりやすく解説した。

 

 

コミュニケーション手段である言葉には、母語と母国語の違いがある。日本人にはどちらも日本語だが、多言語国家では母語と母国語が使い分けられている。

日本に標準語が導入されたのは、中央集権国家として近代化を進めた明治時代。富国強兵と殖産興業を目指す改革の根本に据えられたのが「国語政策」だったという。

文明開化は、言葉の地域差を一段と強く意識させた。言葉が通じないと、政治も経済も成り立たたなくなるため、自分の言葉と違うものは「方言」と呼ばれ、問題視されるようになった。政府では、国語調査委員会を設け、標準語の制定に取り組んだ。また、明治期から始まった学校教育では、地域格差を解消するために、全国一律で標準語の教科書が配られた。

 

 

 

言葉の伝播は情報を伝達する性質を持つ。伝言ゲームのように、伝わるうちに言葉の形態や意味、用法が変化することを「言語変化」という。また、時代に応じて物と一緒に消える言葉もあれば、新しく生まれる言葉もある。

人が旅をすると、言葉も旅をする。江戸時代の北前船は、上方から行き来する荷物と人のほか、新しい文化や名前を運んだ。港からは、物と一緒に言葉も地方に伝わった。

地域の違いが言葉に影響を与えているので、方言を調べるときは、人々の交流の仕方が手掛かりになる。

 

 

秋田の方言は「ズーズー弁」と呼ばれることが多い。なぜなら、「い」と「う」の発音が近いから。「い」と「え」も近い。さらに、「あ」と「い」の母音が重なり一つの母音として存在するので、秋田弁の母音には「あ・い・う・え・お」5母音の他に「いぁ」がある。6母音体系になることで「い」と「う」の発音が、東京の発音と違う結果をもたらした。この理由から、東北地方、特に秋田の言葉は「聞きづらい」「発音の区別がつきにくい」、あるいは「真似しにくい」と言われるようになっている。

 

 

 

■秋田弁の発音例

 

・「い」と「え」の発音が近い…駅「いぇき」、椅子「いぇす」、井戸「いぇんど」

・「け」の使い方…痒(かゆ)い「け」、来い「け」、食べなさい「け」

・「し」と「す」の区別がない…寿司「すす」、獅子「すす」

・「ち」と「つ」の区別がない…乳「つつ」、土「つつ」、地図「つづ」、地面「づめん」