旅する地域考archive

秋田で秋田と想ったこと

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#レクチャー「集団で逗留し、巡る」

#北秋田市

#船橋陽馬

冬編 Lecture

船橋 陽馬

 

開催日:2019212

会場: 北秋田市 根子集落

 

 

マタギ発祥の地として知られる北秋田市阿仁の根子(ねっこ)集落。地域ゲストは、男鹿市出身でここに移住して6年目を迎えた船橋陽馬氏。マタギの肩書を持つ異色の写真家で、当プロジェクトの記録撮影を担当した。講座の後は、根子集落出身の湊健作氏が先導し、橇(かんじき)を履いて雪原歩行を体験したり、雪の中で熊鍋を囲んだりした。夕食後は、国指定重要無形民俗文化財「根子番楽」の練習を鑑賞した。

 

 

1975年に開通した「根子トンネル」を抜けると、眼下にはすり鉢状に広がる根子集落がある。現在約50世帯150人が暮らす辺境だ。「マタギは熊を狩る人のイメージが強いかもしれないが、僕にとっては、その土地で暮らす知恵と技術、山で生きる術を持つ人。生き方そのものがアーティストで、クリエーターだと思う」と船橋氏。彼は、伝統芸能の根子番楽に魅せられ、移住を決意したという。

 

 

マタギたちは「地図に載らない地図」を持ち、山の奥まで広範に歩く。集団猟「巻狩り」では、熊を撃つ「マチバ」と追い出す「セコ」の二手に分かれて猟をする。船橋氏は一度だけ熊を仕留めたことがある。「マタギにとっては、山の恵みの全てが山神様からの授かりものです」。熊を獲った後は、感謝の儀式「ケボカイ」を執り行い、肉を解体して山を下りる。

この土地には「マタギ勘定」という文化があり、上下関係には一切こだわらず、猟に出た全員で全てのものを均等に分ける。「集落の人々が一緒に生きるために続けてきた名残だと思う。その光景を見て、ここに住んで良かったと実感した」。

 

800年続くとされる根子番楽は、毎年8月に一般公開される。集落の人々は、毎週水曜の夜に集まって練習し、酒を飲むのが長年の慣習となっている。集落の子どもだけでは番楽を残せないので、参加を希望する子どもは他の地域からも受け入れている。

 

船橋氏は、高校卒業後に東京都やロンドンに出て、31歳で秋田県に戻った。「どこに行ってもよそ者である意識が絶えずあったけれど、ようやく見つけた根子は自分の旅の終着点。ここで家族も作った。暮らしを楽しみつつ、いつか旅立つであろう息子たちに、この土地で何を教えられるかを考えて生きていきたい」と最後に語った。