渡邊 眞奈
建築を学ぶ渡邊眞奈さんは「都会の公共空間の曖昧さや、公共という言葉の便利さに対する疑問」を以前から感じていた。「例えば、タワーマンションでは公開空地が作られるが、結局それは誰のためでもなかったりする。地方と東京では公共という概念が違うものだと考えていたが、今回の旅でも同じ問いについて考える結果になった」と話す。五城目町では公共空間を「個人の生活が集積する場」として捉えようと試みた。そのために選んだ手法は、町の人に「ワタナベさんをご存じですか?」とたずね、目的地までの道のりを口頭で案内してもらうことだった。
プレゼンでは、ギャラリーの大きな窓に並行して設けられたグリッド式の絵本棚を使った。鑑賞者には、それぞれ絵本を1冊ずつ選び取ってもらい、本棚にできた隙間から窓側をのぞくよう促した。
「今から役に立たない地図を書こうと思います」と話したあと、「町のワタナベさん」の家を教えてもらったときに録音した5人の住民の音声を流した。渡邊さんは、秋田弁の道案内に合わせ、ギャラリーの窓の上に手書きの地図を描いた。
「町の人に同じ質問をしても、同じ答えは返ってこない。地域の中に知り合いが多い人やそうでない人など、いろんな人がいる。都市の公共性を個人の生活圏の集積から見ていくには、自分の体験を積み重ねることでしか答えが見つけられないのかもしれない。最短の直線で目的地を目指すことについても考え直す機会になった」。鑑賞者に見づらかったり、聞きづらかったりする状況を体感する機会を提供し、見えない部分を想像させるという狙いがあった。「全員同じ方向を見て、互いに目を合わせないという状況は、東京で考えていた公共性にも近いように感じた」と話した。