谷口 茉優
谷口茉優さんは「スプーンの履歴書」と名付けた作品を発表した。テーブルの上に並べたスプーンと履歴書が3組。スプーンを撮影した履歴書の肖像写真はどれも同じものだが、記述されている内容がそれぞれ異なる。
「今回の旅では、固有の地域が持つ独自性に触れることができた。独自性は地域の共同性を育めるし、他と競争する以外の術を持つことができると感じた」と谷口さん。
自分の生きる地域を改めてふり返ってみると、まちなかには、チェーン店のようにどこに行っても食ベられるものや買えるものなどが溢(あふ)れている。さらに、制服の学生には個性を伸ばすことが求められる一方、就職活動では決められたルールの下の振る舞いが別に求められる。生まれた問いは「均質のとれた環境において、個性は存在するのか?」というものだった。
谷口さんは、プレゼン前日まで「人間の顔」「地方と都市においての個のあり方」をテーマに構想を模索していた。講師と相談する中で「証明写真」とのキーワードを得たことで、極端な事例を用いて個性を確かめる形にしようと決めた。大量生産されるスプーンを擬人化し、それぞれに異なるバックグラウンドを持たせることで個性を与えた。「均質のとれた中においても、わずかな差異が出てくる。その固有性を見つけるための労力を私たちは養っていくべきなのではないか。似ている者同士の中にも一つ一つの物語があるはず」と話した。