茂木 美野子
茂木美野子さんは、プレゼンテーションで2台のノートパソコンを並べて北秋田市阿仁で鑑賞した根子番楽の踊りの編集映像を流した。パソコン中央の壁には写真フィルムネガを展示した。
映像の一つは、スマートフォンで撮影したデジタル映像。もう一つは、その映像をコマ送りにしながら市販のレンズ付きフィルムカメラで撮影し、再度つなぎ合わせた映像。一つの「舞」の動きを繰り返す2種類の映像は、一見すると同じようにも見えるが、微妙に動きが異なる。
茂木さんが、旅で強く印象に残ったのは「番楽は約800年の間、一切の手引書や保存媒体を持たずに、口承で文化を受け継いできた」という集落の人の言葉。番楽の体験を基に作品の構想を進めた。
「全てのものが刻々と変化して、失われていく世界において、根子番楽のように継承するのは容易なことではない。800年前にあったはずの意味や存在は、月日の経過とともに不鮮明になる。しかし、その曖昧(あいまい)な存在は、形を変え、上書きされ、更新され、次世代へと確かに受け継がれる。番楽は何度も繰り返し再生されて、鑑賞されて、新しい意味付けが行われてきた」と茂木さん。
インターネットの普及により、日常の中で触れる情報量は膨大に増加し、いつでも情報にアクセスできる。「デジタル映像は、理論上永久に保存・再生ができると言われているが、果たしてここにあったはずの世界は本当に永久再生できるのだろうか。再生を続ければ、番楽を永久に存在させられるのだろうか」との考えから、あえて、デジタルとフィルムを使い分けた。「ネットとリアルの世界は別物だと思っていたが、曖昧につながっている部分があることに気が付いた」と振り返った。