吉田 彩花
吉田彩花さんは故郷・岩手県の小説家・宮沢賢治の小説を素材に、5種類のテキストフォーマットを作って発表した。本や言葉をキーワードに、情報の取得方法や旅の仕方を変えるような制作を試みた。
「プロジェクトに参加する以前は、身体的に遠い場所へ行くことが旅だと思っていた。今回の旅は、日常に近いと感じた。精神的なものや記憶が過去に結び付けば旅になるとの意見を聞き、そのときに感じた衝撃を形にしようと思った」。
吉田さんにとって「日常の中にある旅」は、読書だった。本は、非日常の世界に入り込めるし、思考を深掘りすることもできる。そこで「本と私の旅」を関連付けることにした。
制作用の素材に選んだのは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」第6章の文章。ギャラリーの本棚には、吉田さんが編集を施した5種類のテキストが並べられた。
「今回の旅をふり返ると、思考的にもあちらこちらへ行き来したけれど、いろんなアプローチの仕方があり、考える時間が楽しかった。これが今の私の旅の形。今後も考え続けたいテーマになった」と発表した。
●5種類のテキストフォーマット
1)真っ黒のページに黒インクで印字したもの
よく見ないと見えてこないもの。自分で情報を取得しなければ、見えないもののイメージ。
2)テキストを重ねて印字したもの
情報量やキーワードが多かった旅のふり返り。意識すると、目に付く単語が出てくる。
3)気になる文章、単語を切り出し、集めたもの
宮沢賢治独特の描写の中で気になるものを抽出。キーワードのみを並べると全体の印象とは違うものになる。
4)3の単語を抜き出したテキスト
ところどころに「穴」があることで、捉え方が変わってくる。
5)文章を一本の紙に長くつなげたもの
旅の経験はつながっているし、質量的に多い。「流れ」を視覚化すると、時系列で辿(たど)る意識や旅の連続性につながる。