旅する地域考archive

秋田で秋田と想ったこと

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冬編 制作ダイアリー

五城目町での”冬籠り”

 

2019年2月13日~16日

 

 

7日間のスケジュールで行われた「旅する地域考 秋田と構想する冬編」。冬編では、旅する場所とそこに生きる人々(地域)を「旅人を受け止める器」として着目するのが課題のひとつだった。

210日から12日までの前半3日間は、旅の拠点となる五城目町からスタートして、三種町の松庵寺、北秋田市阿仁根子集落を巡りながら、国内外から集まったゲスト講師たちのレクチャーを受けるほか、クッキング、ライブ、雪原散策、根子番楽の練習鑑賞など、盛りだくさんのアクティビティを体験。

213日から15日までの後半3日間は、それまで濃密な時間を過ごして”インプット”された情報や体験を、受講生たちが個々で”アウトプット”する制作の時間。五城目町に逗留しながら、参加者相互の対話を深めるためのワークショップやメンタリング・セッションを実施した。

そして、最終日の216日には、五城目町のギャラリー「ものかたり」でプレゼンテーションを行った。受講生たちは、タイトなスケジュールの中で構想・制作した各自の「旅」について、自由な形式で発表した。

 

 

 

2019.2.13

 

”冬の旅人”たちは、3日間の移動を終え、午前のうちに五城目町に戻ってきた。最後の滞在先「五城目町町民センター」は、宿泊と制作の拠点を兼ねた逗留の場だ。大広間に集まった受講生は、ガイダンスを受けたのち、前半の旅のふりかえりとプレゼンテーションに向けた中間構想について一人ずつ発表した。

彼らの言葉の中には「空(くう)」「座禅」「番楽」「境界」など、これまでのレクチャーからインスピレーションを受けたキーワードが次々と挙がっている。

 

 

制作期間は3日間というわずかな時間だが、タイ・バンコクから真冬の秋田にやって来たスラシ・クソンウォン氏や、ベルギー・ブリュッセル在住のメルセ・ロドリゴ・ガルシア氏など、世界や国内で活躍するメンター(講師)たちにいつでもアクセスして、制作に関する相談やディスカッションを行えるのが、「逗留型」プロジェクトの大きな特徴でもあった。各自の企画やアイディアについては、全員で共有しやすい環境を整えていた。

 

 

午後からは、当プロジェクト最後のローカルゲスト、五城目町在住の言語学者・佐藤稔氏による現地講座を受けに、朝市通りのそばにある「団欒(まどい)の家 高堂」へ。レクチャーでは、母語と母国語の違い、標準語の成り立ち、秋田弁を例に、地域固有の文化と見なされやすい方言が、いかに他の地域の影響を受けて成立しているのかなどについて学んだ。

夜の時間には、夕食とコインランドリーでの待ち時間を利用して、自発的なミーティングを行う受講生たちもいた。

 

 

 

 

 

2019.2.14

 

誰かが去ったら、また別の誰かが旅に合流する。1週間のスケジュールの中では、最初から最後までを固定されたメンバーで同じ時間を過ごすのではなく、旅人(主に講師・スタッフ)が、入れ替わることによってチームに新しい風をもたらしていた。

 

一つだけ残念だったのが、メンターのガルシア氏が、この日から旅のチームを途中で離れてしまったことだ。ガルシア氏は前夜に、慣れない雪道での転倒で骨折してしまい、秋田市内の病院で入院することが決まった。(※現在は全快)

予期せぬアクシデントによるガルシア氏の不在で、不安や心配も募ったが、残されたメンバーの結束はこれまで以上に強くなったたようにも思える。

 

また、この日は受講生の一人で、夏編にも参加した島崇さんが、都合により一足早く旅のチームを離れることになっていた。午前中は、島さんの冬の旅を総括するプレゼンテーションの時間が設けられ、SNSを活用した全員参加型のリーディングパフォーマンスを行った。

 

 

島さんのプレゼンテーションに刺激を受けたほかの受講生たちは、グループディスカッションを終えたあと、各自の制作活動に着手した。

発表スタイルは自由なので、時間の使い方はさまざまだ。町民センターで企画を立てる人、インスタレーションを行うギャラリーの下見に行く人、町でフィールドワークを行う人、コーヒーショップで構想を練る人などがいた。また、この日は秋田市や近隣のショッピングセンターまで、車に乗り合わせて素材の調達に出かけるグループもいた。

 

 

 

夕方は、ダンサーでもある受講生の朝倉泰臣さんがダンスワークショップを企画。みんなで動いて、冬籠りで鈍りつつある身体と気持ちをリフレッシュさせた。

 

 

 

 

 

2019.2.15

 

「旅する地域考」では、通訳の人たちが、コミュニケーションの橋渡し役として欠かせない存在だ。バイリンガルのメンバーも多く、旅の中では常に英語と日本語、そして少しのタイ語が飛び交っていた。

215日の朝は、町民センターの大広間で、通訳の一人・円光 門さんが企画した哲学ワークショップからスタート。日本語には翻訳されていないニーチェの文献を読み合わせた。

 

 

全体ミーティングでは、一人ずつ制作の進捗状況について発表。限られた時間、限られた場所での作業もこの日が最後。メンタリングや他者との会話がヒントとなり、初日の構想から少しずつテーマを変えていく人も少なくない。この時点で翌日のプレゼンテーションがどんな内容になるのかは、まだ把握しきれなかった。滞在中の予定を自由に書き込む壁面の模造紙には、プレゼン会場の見取り図も描かれ、発表や展示を行いたいスペースに、各自の名前が記されていた。

 

午前中は、ファシリテーターで映画監督の石山友美氏のレクチャーも実施した。石山氏がこれまで手がけた作品の解説のほか、秋田で撮影した「旧黄金井酒造」の映像鑑賞、2019年度から始動した「秋田8ミリフィルム・アンソロジー」という、家庭内に眠る8㎜フィルムを収集・保存するプロジェクトについて紹介された。フィルムや映像に興味のある受講生が、レクチャーに引き続き、石山氏とのメンタリング・セッションを行っていたのが印象的だった。

 

 

午後以降は、各自の制作の時間に。講師陣たちは、大広間の一つのテーブルに全員待機して、個別相談に訪れる受講生をフォローした。制作で抱える迷いや疑問について、じっくりと話し合い、さまざまな視点からのアドバイスを行った。

 

 

 

 

最終日の制作は夜遅くまで続く。一晩かけて氷のキューブを作ろうとしていたオウプカム・アノタイさんは、想定外に暖かくなってしまった外の気温を心配していた。朝倉さんは、三種町でレクチャーを受けた英心氏にもう一度会いに、松庵寺へと向かった。

 

 

 

 

 

2019.2.16

 

いよいよプレゼンテーション当日。午前は各自で制作や設営を行い、午後は全員ギャラリー「ものかたり」へ移動する。朝の全体ミーティングでは、発表の順番を決めた。また、この日は「P3 arts and environment」の統括ディレクター・芹沢高志氏もチームに合流した。

 

 

長いように思えた冬の旅も今日で最後。明日からは、それぞれが自分の「日常」に戻っていくことになる。

この1週間、受講生一人ひとりの気持ちに寄り添い、制作を見守ってきたスラシ・クソンウォン氏は、「発表そのものよりも、自分のコンセプトと向き合っている今の時間の方が重要だ。向かう方向がわからないのも、旅である。最も大切なのは、他者と共有するために自分自身でアクションを起こすこと」であると、受講生たちにメッセージをおくった。

 

 

当日のようすは、#プレゼンテーション をご覧ください。