旅考を語る
岸 健太
―同伴者がいるからこそ
昨年から夏編と冬編の年2回に分けて開催している「旅する地域考」。多様な海外ゲストやメンターとともに地域を旅する、このユニークな集中型ワークショップはどのように構想されたのか、いかにプログラムされているのか。
企画の中心にいる秋田公立美術大学大学院の岩井成昭さん、岸健太さんに、10分で区切ったショートインタビューで少しずつ話を聞き出していきます。
―「旅する地域考」の夏編は、9泊10日にわたる旅で集団行動がベースになりますね。
岸:拘束されることが嫌いな表現者も多いと思うので、不自由に感じる方もいるかもしれないけど、これも踏むべきプロセスだと考えています。岩井さんは「内圧を高める」という言葉でよく表現されますけど、自分の意志で自由にどこでも赴くことができる一人旅とは違うからこそ、創造力という内圧を高めることができるだろうと考えています。
―複数の参加者たちと旅する中で、自身の内圧を高めていくと。
岸:はい、我々メンターも含めると、十数人が同じ現場にいるわけですから。そして、集団で旅をすることの意味がもうひとつあって、自分が何を見るかだけではなくて、隣にいる旅の同伴者が何を見ているかにも気づくことができる。自分一人で旅をすれば自由ではあるかもしれないけど、自分の中だけに非常に閉じてしまっている可能性がありますよね。
―いくら移動しても、一人では自分の枠から外に出るのは難しいかもしれません。
岸:そうなんです。同じ現場を訪ねても、旅考では同行するメンバーが全然違うものを写真に撮っていたり、違うものに気づいて話をしたり、あるいは同じことについて話しているとしても専門領域や語り口が違っていたりして。そういったことに、その場で即興的に気づくことができるというのは大きな意味があると思います。
―旅をしながらプロジェクトを進めるというスタイルは、「みちのくアート巡礼キャンプ」をかなり踏襲されているということですけど、岸さんは「旅をしながら」の意義をどう捉えていますか。
岸:1か所に留まって自分のバックグラウンドにどかっと座りこんで考えこむようなことが、移動を続けているとできないわけで、自分のバックグラウンドみたいなものもなるべくコンパクトに、ポータブルに持ち歩いて、それを巡る先々で出会うものと照らし合わせて現場を読み直したり、自分が抱えるアイデアや思想をもう一度育て直したりということを必然的に行うことになります。学校の教室で考えたりすることとはまた異なる、生産的で創造的なやり方だと感じています。
―旅で考える、旅を考える、旅と考える…まさに「旅する地域考」のタイトル通り。
岸:そうですね。僕自身の専門は、アーバンスタディズというひとつの都市をベースに逗留するような形で進めてきたので、僕にとっても移動体となってその土地のことを見ていくのは、とても興味深い体験なんです。たとえば、このやり方を都市の環境でやってみたらどうなるんだろうとか、いろいろ考えさせられます。
―おお、なるほど。それでは、岸さんのアーバンスタディズのことはぜひ次回、あらためてお聞かせください。
※インタビューのなかで話題にあがった「みちのくアート巡礼キャンプ」と「旅する地域考」の関係については、岩井さんのインタビューでも触れられています。
「みちのくアート巡礼キャンプ」