夏編レポート DAY9
2019.8.9
ついに始まった「旅する地域考 辺境を掘る夏編」。現場に同行しているスタッフがその様子をレポートします。
あたらしい視座
10日に及んだ土地と人との交わりの日々は、明日終わる。旅にはかならず終わりがあるという当たり前のことに、私たちはいつも事が終わる頃に気づく。ほんとうに、旅は人生のようだ。けれど、旅の終わりが大団円とは限らない。
ジョン・スタインベックは車上生活で全米を巡った長い旅の終わりに、ようやく帰還したニューヨークで徹底的に道に迷い旅の中で最も深い絶望を経験する(しまいには警察の誘導で自宅に帰り着く)。僕らは旅を経て世界を俯瞰できるようになるのではなく、むしろ数多の土地と人と遭遇し交流する中で多様な「個別」や「部分」に向かう想像と共感の力を育んでいるのだろう。今回の参加者たちの取り組みにも、このような「あたらしい視座」が深く組み込まれていることが見えてきている。地図的ではない、足元の小石から世界を手繰り寄せる視座だ。
夕食の後に、今回企画には参加が叶わなかった相馬千秋氏と私たちとのSkypeディスカッションの機会が得られた。一時間ほどの限られた時間の中で、数日前に生じた『あいちトリエンナーレ』内企画である『表現の不自由展・その後』に対して政治行政の側が発動した規制圧とそれを契機に生じた市民のイデオロギー的対立に対する相馬氏の見解を伺い、また参加者からの質問にも丁寧な回答を頂いた。分断と対立をはぐらかし攪拌する実践としてのアートへの期待はいかにして保持が可能かという相馬氏の問いに応える言葉を、私たちはそれぞれの仕方で探り始めていた。足元から、少しずつ。
明日の成果報告まであと半日。それぞれの日は沈み、それぞれの夜が明ける。
2019.8.9旅程
9:00|Bar & Stay yuzaka 全体ミーティング
10:00|鹿角・小坂地域 個別リサーチ
20:00|Bar & Stay yuzaka メンター 相馬千秋さんとのSkypeディスカッション
文/岸健太(メンター) 写真/伊藤美生(編集班)