2019.8.10
檜原海都/日比野桃子/成田一加
「旅する地域考 辺境を掘る夏編」の最終日、滞在先の「Bar & Stay Yuzaka」とその周辺を会場に、9名の受講生が10日間の旅を通して感じたことを、自由な形式で発表しました。受講生たちのコメントとともに、3回に分けてご紹介します。
#1 檜原海都 Kaito Hiwara
「恵」
鹿角市内を流れる大湯川に、直径3メートルほどのランドアートを構築。ストーンサークル状に石を盛った中央に地元で採れた野菜類を祀った。あわせて、土器を携えながら無着衣で天を仰いだり、野菜に水をかけたりするなど、古代人の祈祷をイメージしたパフォーマンスを披露。鹿角のフィールドリサーチを通じて知った「地域の恵み」を題材に神格化することで、土地への感謝を表現した。
<statement>
私たち(鹿角の人)が日々健康に、幸せを感じているのは、鹿角の新鮮な野菜を食し、雄大な自然を活かした産業に支えられているからである。その鹿角の活力の源は、鉱物や土などの広大な大地である。その大地に感謝する、儀式を行なった作品である。太陽や気候に関係している大湯環状列石を模して石を組み、鹿角の野菜で周りを彩っている。
そこで、鹿角の野菜などに感謝の儀式をすることで鹿角の素晴らしさを再認識するのである。(檜原海都)
#2 日比野桃子 Momoko Hibino
「空に/を象る」
「熱い湯に入ると気持ちいいのは、自分の皮膚の存在に気づくからではないか。自分と周りの世界の境目が現れて、安心するんじゃないか」。温泉・地面・皮膚をキーワードに、身体パフォーマンスを披露。墓地に隣接する芝で覆われた広場を舞台に、手足や顔についた草の跡をペンでなぞったり、地面に体を這わせたり、天を仰いだりするなど、「感覚を重視して」自由に身体を動かした。
<statement>
地球の熱を帯びた岩に横たわる身体を目撃した時、
その存在が放つ無言の声に、その切実さに、
私はまるで憧れてしまったようだった。
地球に身体の全てをあずけ、返ってくる力を受け止める。
地面に対して垂直に立つということについて、考えなければならないと思った。
皮膚の内側への畏れと、外側への羨望。
私はその境目に、跡をのこす衝動に駆られた。
私は生きている。それは痕になって残った。
あるところに、婆と娘がおりました。
娘には、家族がいました。
婆は、一人でした。
はれた空の先に、人は何を見るのか。
(日比野桃子)
#3 成田一加 Itsuka Narita
「memory of water」
旅のリサーチで採取した湧き水、温泉水、鉱山の水などを入れた小皿を芝生に並べ、草木染の布を展示。半年前に鹿角市に移住した成田は、地域の水の成分に含まれた情報を布に織り込み、土地をより深く知ろうと試みた。鹿角の土地を再生させた植物・ニセアカシアで染めた茶色い布地は、玉川温泉と尾去沢鉱山の強酸性の水に浸けた部分が白く抜けている。「鹿角の自然の驚異とその関わり方、伝え方を考える機会になった」。
<statement>
今回の旅で巡った土地の水。
この水の中に刻み込まれている土地の記憶を布に刻みたいと思った。
色として使用した植物は「ニセアカシア」の葉。
かつて鹿角、小坂で鉱山が栄えたころ、この鉱毒で枯れた土地を蘇らせた植物である。
【アルカリ性】
後生掛温泉の山の水
銭川温泉の温泉水/山の水
旧関善酒店主屋にある花輪おせど
大湯下の湯温泉水/井戸水
十和田大清水
大湯元の湯温泉水
八幡平黒澤集落の湧き水
【強酸性】
尾去沢鉱山の水
玉川の川の水/温泉水
鹿角の雄大な自然が生み出す水。
自然のバランスが人をも救い、また人や自然をも破壊するものに変わっていく。
人工的に破壊してしまった山から永遠と湧き出る強酸性の水。
人々が死からの生還を願い求める自然が作り出す強酸性の水。
豊かな緑を育み続ける柔らかなアルカリ性の水。
この土地でこんこんと湧き続ける水にはどんな記憶が刻まれているのだろう。
この作品を通して、少しでも人と自然との関わり合いについて
考えるきっかけになれば幸いです。
(成田一加)