2019.8.10
柴田英徳/金田麻梨香/池永梨乃
「旅する地域考 辺境を掘る夏編」の最終日、滞在先の「Bar & Stay Yuzaka」とその周辺を会場に、9名の受講生が10日間の旅を通して感じたことを、自由な形式で発表しました。受講生たちのコメントとともに、3回に分けてご紹介します。
#4 柴田英徳 Hidenori Shibata
「石との旅路」
テーマは「日常を旅化する」。鹿角の昔話をベースに創作したテキストを地元の男性に語ってもらい、音源をYouTubeにアップロードした。鑑賞者は、イヤホンを通して現実とフィクションが混ざり合う語りを聴きながら町を出発、「お化け石」の伝説を持つ石が祀られた神明社へ向かう。最後には、出発地点で拾った石を神社に奉納した。
<statement>
5日間生活して、自分にとっての日常になりつつある町「大湯」。その鹿角・大湯の昔話や伝説である「光る怪鳥」「おばけ石」が織り込まれたストーリーを聴きながら歩くことによって、普段の町を少し変える試み。
昔話の語りが持つ、フィクションに引き込んでいく力、現実に引き戻す力、純粋な語りの声の魅力に興味を持ち、オーディオガイド式の作品を制作。
自身のテーマである「日常を旅化する」とは、当たり前になった場所で普段しない行為を実践することで日常の中に非日常的な一面を見出すこと。
今回は、その発展形として「誰かの日常を旅化したい」と考え、ストーリーを聞きながら自然と誘導できるように指示することを意識。
参加者は、普段の町を歩いていながらも、意識ではフィクションの中に入り込み、普段しない行為(石を拾う、目を閉じて歩くなど)を交えながら、異なる旅の体験を味わう。
(柴田英徳)
♯5 金田麻梨香 Marika Kaneta
「きっと空っぽ」
滞在していた宿の庭にある小さな祠の前に、尾去沢鉱山内で撮影した「山神社」の写真を掲げ、創作した詩「きっと空っぽ」を披露。
鉱山内に安全祈願で建立された社、伝統行事「花輪ねぷた」と観光客向けの花火など、フィールドリサーチから得た気付きや印象と日頃から感じている小さな疑問を、まちなかに残される信仰の対象に重ね合わせた。
<statement>
今回の旅は思考の旅でした。言葉の意味や言葉そのものが持つイメージ(先入観・固定概念)に取りつかれては抗い、断ち切っては取りつかれ…。それそのものを表現するために、詩を朗読し、聞いた人に追体験をしてもらう手法を用いました。
詩は、10日間鹿角で生活した体験と、リサーチで見えてきた社会の構造、私が何に興味を持ち、何を感じたのかを、実際に尾去沢鉱山の坑道を歩いたことと織り交ぜながら、私が作り出した考道(こうどう)を案内する構成にしました。
(金田麻梨香)
#6 池永梨乃 Rino Ikenaga
「エッセイ/コラージュ」
「タマムシになった日」など7篇のエッセイと、鹿角産の野菜・果物をモチーフにしたコラージュを展示。好きで描いていたはずの絵を描く意味がわからなくなっていた時期を経て、当プログラムに参加した池永は、「この旅で創作に対する確信を得られたこと」「絵が描けなかった期間の心の変化」について、鑑賞者に質問を投げかけるなどしながら発表した。
<statement>
歩くと身体が前に進む。
電車に乗ると身体が前に進む。
知らない場所に行く。知らない人に出会う。
ただ身体が前に進むだけでも、なんだか自分自身とか考えも進歩しているみたい。
いいぞ、前進している。
新しい生き方探してみたい。
そんな実感が欲しい。
答えのない生き方、答えのない制作活動。
時に暗闇の中を進むみたいだけれど、一筋の光が見えたらそこを頼りに進んでいくしかない。一筋の光というのは、自分の中の確信とか、納得とかだ。
去年からの奮闘記とそこから見えた光を書き綴った。
秋田の旅では、数々の偶然と今まで取り組んできたことに引っかかるシンクロニシティが起きた。そんな偶然を見逃さずに選び切り取ってコラージュする。考えているだけじゃわからない、何が起きているのかということ。
世界の輪郭を確かめるように、切り貼りした。
(池永梨乃)