樋口直哉
2020.9.19
レクチャー
ゲストメンターによるワークショップ第1週のテーマは「食を通して見る地域」。作家・料理家の樋口直哉が自身のキッチンから2日間の講師を担当した。レクチャーでは、樋口が産地を巡るフィールドワークで出会った生産者・食材・土地の話、地域性や新しい料理を生み出す「食材×調理×調味の構造」「テクニックとコンセプトの差異」、外国から日本食文化が受けた影響などについて学んだ。文章を書くことと料理をつくることにつながりはあるかと質問された樋口は、「料理も小説も、構築した成果物によって人の感情を引き起こす行為だと思う」と答えていた。
今や観光資源にも匹敵する「ご当地ラーメン」は、旅や地域と密接な関係がある。「ご当地性がどこから生まれるのかは、考えるに値するテーマ。私達は物語を含めてラーメンを味わっている」。翌日のワークショップでは、オリジナルのラーメンをつくることになった。
ラーメンの構成要素は「麺+スープ+油」。樋口は基本のダシの取り方、スープ・香味油の作り方を動画で解説した。翌日の調理に備え、「タビコウキット」で送った食材に加えて、受講生がオリジナルの具材を選び、スープを準備するという宿題が出された。物語のあるラーメンから、間接的に相手のことを知ろうとする試みだ。
※ラーメンの食材……樋口直哉が選んだ食材は、揖保乃糸 中華麺/瀬戸内産無添加煮干/日高昆布/鈴木鰹節店 鰹ふぶき/ヤマロク醤油 鶴醤(つるびしお)/東京風ラーメンのレシピ。「タビコウキット」として受講生に送られた。
2020.9.20
ワークショップ
樋口による「物語のあるラーメン」の調理ワークショップ。「料理を作る意図が重要」ということで、テーマと具材について一人ずつ発表したのち、調理の時間を挟み、オンライン画面に並んだラーメンを撮影するまでをゴールとした。フライドオニオンやローストトマトをトッピングした樋口の「外国人が考える東京風ラーメン」に続いて、受講生たちがプレゼンテーションを行った。
受講生たちはそれぞれのキッチンで調理を終え、画面の前に再集合。順番にオリジナルラーメンを披露した。想像以上に地域性や個性が垣間見えるものとなり、驚きや歓声が上がった。完成品を撮影した後、実食タイムへ。「どんな味ですか。おいしくない、というのも味のひとつ」と樋口。オンライン上で、みんなでラーメンを作って食べるというのは、「alternative」だからこそのユニークな体験。食後のおしゃべりでは、話題が連鎖しながら樋口への質問が相次いだ。
受講生がつくったラーメンは、一物全体ラーメン…家庭菜園で収穫したサツマイモの根・茎・葉を具材に。フードロスや生活圏にある食物を考え「なるべく全部使いたい」(稲村)/葛巻町のラーメン…栃木から岩手県葛巻町に引っ越したということで、地元でおばあさんが唯一作っている「ほっぺたもち」、岩手名物「じゃじゃ麺」の肉味噌、シシトウを具材に(増子)/秋田のラーメンを再考する…麺は稲庭うどん、スープは比内地鶏としょっつる、比内地鶏の鶏油。具材は八幡平ポークのチャーシュー、秋田の山菜・ミズの実、秋田産キクラゲなど(梶)
樋口 直哉
Naoya Higuchi
作家、料理家
1981年、東京都生まれ。服部栄養専門学校卒業。2005年『さよなら アメリカ』で第48回群像新人文学賞を受賞し、作家としてデビュー。小説を発表しながら、全国の食品メーカー、生産現場を取材、記事執筆する他、料理家としても活動し、地域食材を活用したメニュー開発なども手がける。主な著者に小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(KADOKAWA)などがある。
●note Traveling Food Lab. https://note.com/travelingfoodlab