渡邊 令
2020.10.4
福岡県八女市にある地域文化商社「うなぎの寝床」は、地域の文化を紐解き、商品の開発や販売につなげて経済循環を生む活動を行っている。リサーチャー・通訳・ガイドの三役をこなす渡邊令が、自身の活動を紹介した。
企業のコンセプトは「ネイティブスケープ」。ローカルではなく、ネイティブな風景をつなぐこと。「受け継がれた歴史を保存するだけではなく、その土地らしさが本当の意味で未来に残るしくみを作りたい」。発掘調査、流通、継承、保存記録の流れで地域資源である「もの」に価値を付加して発信する。同社では、出版やツーリズムにも関わり、文化と触れ合う「体験」も提供している。
東京生まれの渡邉は、カナダで高校時代を過ごし、イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクスへ進学した。「なぜ同じ人間なのに、こんなに文化が違うのか?」という留学当初の問いから、社会人類学を専攻して文化の構造を学んだ。夏休みには、長崎平戸・五島列島での仕事を通じて、国内の異文化との接点を見つけた。
経験から見えたのは、「日本はもったいない」ということ。一番の強みである文化の積層を活かせていない状況だった。「東京ではない、未開拓の地を探そう」と、帰国を決意した渡邊は、2012年に福岡県へ移住。2015年に「うなぎの寝床」に入社した。
「久留米絣」は、福岡の伝統産業。最盛期は300軒あった織元は、現在わずか20軒だ。渡邊はリサーチを通して、世界や日本の絣、伝播の経緯など、多角的に調査して本質を探るという。あるプロジェクトでは、マリー・アントワネットが絣を着用していた文献を見つけ、その模様を久留米絣のもんぺに再現した。「リサーチが商品化に発展したケース。これを機に、久留米絣のブランディング事業、海外アーティストとのコラボレーション、国内外の織物産地との商品開発など、さまざまなかたちで世界につながった」と語った。
※うなぎの寝床……伝統工芸の集積地・福岡県八女市を拠点に、九州~筑後のものづくりを伝えるアンテナショップとして2012年創業。現在はショップ運営のほか、問屋、メーカー、出版、ツーリズムなど幅広い役割を担う。全国で「もの」「ひと」を介した本質的な地域文化を探求し、経済的・社会的な継承と活用方法を提案している。
渡邊 令
Rei Watanabe
(株)うなぎの寝床 リサーチャー、通訳、ガイド
1989年東京都生まれ、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)社会人類学部卒業。その後福岡のポンプ会社で社長秘書を勤めた後、2015年7月に株式会社うなぎの寝床入社。
高校はカナダ、世界中の国から様々な人種の人が集まり2年間共同生活をするという特殊な学校、大学はイギリス。海外での経験を活かし、地方における、日本における本質的な魅力とは何かを考え探り続ける。リサーチして発信・翻訳する役割。
2020年からは(株)UNAラボラトリーズにて、ツーリズムと体験プログラムの企画・ガイドも務める。
●うなぎの寝床 https://unagino-nedoko.net/
●UNAラボラトリーズ https://unalabs.jp/