リサーチノート 05
「旅する地域考 辺境を酌む 冬編」の実施に向けて、旅考の運営メンバーは、次の旅先となるにかほ市と由利本荘市を事前に訪れ、リサーチを続けています。さて、この冬は、どんな場所にみなさんをお連れするのか。どんな体験ができるのか。現地で見つけたことや、感じたことを少しずつご紹介していきます。
不可解な旅の作用
鳥海山に入る修験者の宿坊町だった小滝地区の白滝旅館には、著名人達が残した3点のサイン入り色紙が飾られている。そのうち2点は平成12年の宿泊客「路上観察学会」の赤瀬川源平、藤森昭信ら5人の連名によるもの。そして残る一点は、平成14年宿泊の忌野清志郎によるものだ。この稀代のロッカーによる病魔公表よりも4年早い滞在だが、旅館の女将曰く「清志郎さんは疲れていた様子ですぐにお休みになって・・」というコメントに、胸がざわめく。
白滝旅館は、近隣にある「奈曽の白滝」から名付けられた。あいにく豪雨だった前回の視察では、至近距離を遊歩したにも関わらず、滝の気配さえ感じられなかった。しかし晴天に恵まれた今回の視察では、前回と打って変わり、滝はその豪放な姿を遺憾なく見せつけてきたのである。
私事だが、高校時代に都内の大学祭に出演するRCサクセションのチケットを購入したが、当日高熱にうなされ外出を断念した思い出がある。
・・・このエピソードにオチはない(笑)。しかし、目前で奈曽の白滝が不意に出現した瞬間と、若き日の発熱体験を蘇らせ、それらを脳裏に同時に再生させたのは、紛れもなく白滝旅館の清志郎のサインである。世にも不可解な旅の作用。
文・写真/岩井成昭(プロジェクト統括)