冬編レポート
DAY3
2020.1.10
「辺境を酌む冬編」、現場に同行したスタッフによるレポートをお届けします。
記憶の底に沈ませないために
プログラム3日目。「旅する地域考」メンバーが訪れた辺境の集落は、集落として迎える最後の冬に、その本来の雪深さを見せることはなかった。「普通の年であれば除雪機が何回も道路を往復して雪を寄せるのに、今年はその光景もない」と、長年この集落を撮り続けている地元在住の写真家 三浦繁忠さんは語る。
その集落、百宅(ももやけ)は、ダムの底に沈む運命が決定している。
毎年人が出ていく。田んぼもやめた。ダムになる気持ちを高めつつある百宅集落。バスは景色を見せながらゆっくり走る。途中、タイヤが雪にはまる。抜け出せなくなる。車体が唸りを上げる。中で私たちは揺すられる。「新手のアトラクションみたい」。まだ少し楽しげである。このバスは百宅を一周する。景色が流れる。佇めない。百宅集落にも、止まれないものが刻々と過ぎてゆく。やがて、私たちも百宅を通り過ぎてしまった。
「また来ていただければ」と三浦さん。少しどよめきが起きる。
「百宅は今年でほとんど終わりになります。これで最後だと思います」。拍手が起きる。手に痛みを感じる。この拍手は、今を記憶の底に沈ませないためのものだ。
文・写真/塚本 葵(編集班)
2020.1.10 旅程
9:30| 由利本荘市 齋彌酒造店 酒蔵見学~高橋藤一さん(杜氏)によるトーク
11:30| 齋彌酒造店「発酵小路 田屋」昼食
13:30| 由利本荘市 鳥海防雪センター 三浦繁忠さん(写真家)レクチャー~バスで百宅集落を見学
15:30| 由利本荘市民俗芸能伝承館まいーれ シャルミラ・サマント(アーティスト)レクチャー#1
20:00| にかほ市 白滝旅館 シャルミラ・サマント レクチャー#2
21:00| 白滝旅館 石山友美(映画監督)ショートレクチャー